100%阿波藍で染め上げた
私好みの“藍色”を見つけて

日本一の藍の生産地、徳島

「甕覗き(かめのぞき)」、「薄藍(うすあい)」、「浅葱(あさぎ)」、「縹(はなだ)」、「薄花桜(うすはなさくら)」「錆鉄御納戸(さびてつおなんど)」、「紺青(こんじょう)」、「褐色(かちいろ)」、「留紺(とめこん)」…これらは、すべて藍から染められた色を表す名称。藍の色を表す言葉は、48色あるとも言われている。

ここ徳島は、日本一の藍の生産地。その歴史は古く、平安時代に遡るとも言われているのだ。徳島で育て刈り取った蓼藍(たであい)の葉を乾燥させ、発酵させた天然の藍の染料=“すくも”にしたものは“阿波藍”と呼び、江戸時代には、木綿の普及とともに藍染めした製品が庶民の間にも広がって、藍の生産が盛んになっていく。

徳島を東西に流れる吉野川は、台風などによって、たびたび氾濫を繰り返すことから、日本三大暴れ川のひとつ、四国三郎と呼ばれる。吉野川の氾濫によって、肥沃な土が流れ込む地域でつくられる阿波藍は、品質も別格だったようだ。

明治以降は、インド産の安価な藍や化学合成でつくられた藍が輸入されるようになって、一時は衰退。近年では、天然藍が生み出す色の美しさや、自然に沿った染色方法に魅せられる人が増え、改めて、藍が見直されるようになっている。

ひまわり園での、藍染め風景

徳島県内には、伝統的なすくもで染める「天然灰汁発酵建て藍染め」を行っている障がい者就労支援施設が、いくつかある。藍染めの伝統や技法を受け継ぎながら、それぞれの施設で染め上げているのだ。

今回は、そのなかでも、数多くの藍染め商品をつくっている、徳島市南沖洲にある指定障がい福祉サービス事務所「ひまわり園」を訪れた。

「ひまわり園」は、1960年に徳島市内の知的障がいを持つ利用者の保護者が集まり、“徳島市手をつなぐ親の会”を結成したところからはじまる。1985年に小規模作業所を開所し、途中、社会福祉法人となり、いまの場所に移ったのは、2004年2月のこと。現在の利用者は19歳から66歳の28名で、8名が藍染め作業、20名が焼き菓子づくりや受託作業に携わっている。

いまや「ひまわり園」の主力となっている藍染め商品だが、藍染めをスタートしたばかりの頃は、授産作業としてではなく、地域との交流を深めるための活動としてだったそう。

「藍染めをはじめた頃は、小規模で売上げもほとんどなくて。むしろ、すくも代に使ったら赤字になるぐらいでした。職員の森さんにバトンタッチしてからは、いろんな工夫や努力をしてくれて、徐々に商品が増えていきました。そのおかげで、いまは、藍染め商品が主力になっています」と橋本園長が教えてくれた。

すくもは、上板町にある新居製藍所から仕入れ、染め液にする作業“藍建て”は「ひまわり園」で行う。藍染めのハンカチやストール、リースやストラップ、ドリームキャッチャーや端切れを使ったガーランド、そして、藍で染めた糸で刺繍をしたバッグなどを、手作業で丁寧に制作している。

2階の染め場では、ここ数年染めを担当している伊勢竜之さんが「藍はあったかい。最初は大変だったけど、楽しくなりました。僕は染めることが好きです」と笑顔で話してくれた。

1階の作業場では、利用者のみなさんが集中して制作に取り組んでいた。お客さんから評判の良い、藍で染めた糸を組紐にする作業を担当するのは、諭さん。「長い組紐(ネームプレート用)だと、完成まで2日間ぐらいかかります。他の利用者さんも短い組紐(ストラップ)をつくってくれているけど、長い組紐の方は僕がメインでつくりたい」と責任感たっぷり。隣にいた職員の港さんからも、諭さんには安心して任せられると信頼を得ている。

いまは組紐づくりの達人である諭さんだが、「最初は、焼き菓子をつくっていたんですけど、組紐をやってみたら、『これがやりたい!』って思って。港さんに相談して、異動させてもらいました」と藍染めの担当になった理由も話してくれた。

ここでふと、どうやって仕事内容を決めるのかな?と思い、職員の港さんに訊ねてみた。「ひまわり園を利用される前に、実習というかたちでご本人にどのような作業が合うのかというのを体験してもらうんです。そのなかから適したものを職員内で話し合ったり、ご本人の意向を伺って調整していく、という感じですね」。

体調を崩して休むこと以外は、ほとんどの利用者さんが毎日出勤している。そして、生き生きと楽しんで制作している。それは、自分たちがつくったものが商品になって販売され、たくさんの方に喜んでもらっているという実感があるからだろう。

藍の可能性を広げるために

はじめに橋本園長から、「森さんが工夫や努力をしてくれて…」と聞いていたので、具体的にどんな工夫をしているのかと、森さんに訊ねてみた。

「以前は、ハンカチやマフラーなど、定番のものしかなかったけど、いろんなものを染めはじめたんです。例えば、服であったり、毛糸であったり、木であったり。イベントなどで販売に行ったときに、お客さんから“こんなものないんですか?”っていう要望や意見からヒントを得て、できそうだなって思ったものを、染めてみたんです。そのなかから、人気商品も出てきた。おかげさまで順調なのは、お客さんからの声を吸い上げてつくっていけたからだと思います」と。

藍は生きもので繊細だから、大量に染めると藍が死んでしまうこともある。そのバランスを見極めるのが大変で、経験を積んでいないと難しいそうだ。

藍染めの魅力について語ってくれる森さんは、ずっと前から藍染めをされていたのかと思いきや、「ひまわり園」に来るまでは、藍について興味も経験も全くなくて、担当になってから学びはじめたのだそう。橋本園長の他にも、藍の知識のある方に教えてもらったり、専門書を読んだり、染め物職人さんに話を聞いたり…。実際に藍染めをするようになって、どんどんのめり込んでいったとのこと。藍色をしっかり残せるような方法を、現在も研究している最中だと教えてくれた。

最後に森さんが話してくれた言葉が、私の心に残った。

「たぶん藍も色落ちしたり、色移りしたり、染め物としては不良品として扱われる部分もすごく多いと思います。でも、もしもみんなが全身藍染めの服を着ていたとしたら、色移りも気にならないですよね(笑)。色落ちや色移りしないものが、いまや普通で良しとされている方がおかしいんじゃないかって」。

“普通”や“普通じゃない”って、誰がどうやって決めるんだろう。私の“普通”とあなたの“普通”は違うかもしれない。個性を活かし、オンリーワンを目指すなら、なおさら周りと同じであることが意味を持たなくなってくるんだろうな。

「ひまわり園」はもちろん、徳島県内で藍染めに取り組んでいる施設から、とっておきのアイテムがたくさん届きました。数ある藍染め商品のなかから、“私だけの藍色”を見つけられますように。