あなたの胸元に微笑みを
かのんの「マトリョーシカ・ブローチ」

梨畑の中にある就労支援施設

取材チームがやってきたのは、徳島県鳴門市大麻町にある就労支援施設「グッドジョブセンター(GJC)かのん」。優しい空色の本館とクリーム色の新館があり、ぐるっと梨畑に囲まれている。

「グッドジョブセンター(GJC)かのん」は、2003年に「知的障害者通所授産施設かのん」として開所。2012年には現在の名称に変更し、利用者も増えてきたため、新館作業棟も増築された。現在は、約80名が利用している。昨年はコロナ禍で実現が叶わなかったが、毎年秋には作品を展示購入できるイベント「かのんフェスタ」を開催し、地域の方々と交流できる場をつくってきた。

「グッドジョブセンター(GJC)かのん」の一日は、朝9時にはじまる。利用者のみなさんが乗った通園バスが到着し、身支度を整えたら、9時30分にはそれぞれの持ち場で、作業をスタート。午前中は15分の休憩を挟み11時45分まで、昼食を摂った後、午後は13時〜15時45分まで。16時には、またバスに乗ってそれぞれの家路へとつく。

施設では、徳島の地場産業の藍染めや大麻町の伝統工芸である大谷焼、羊毛や自分たちで育てた綿を紡いだ手紡ぎ糸、また、パッチワーク講座から生まれた刺繍作品などをつくったり、天然酵母を使った素朴な味わいのパンを焼いたり、箱折りや袋折りなどの受託作業を行ったりしている。


「マトリョーシカ・ブローチ」誕生秘話

「グッドジョブセンター(GJC)かのん」の新館に併設されたショップ「かのん日和」では、利用者のみなさんが一生懸命つくった作品を手に取って、購入することもできる。今回は、さまざまな作品のなかでも、ひときわ目を引く「マトリョーシカ・ブローチ」の制作風景を取材させてもらった。

そもそものはじまりは、毎週施設でのパッチワークの時間。講師の方が、元々あったマトリョーシカのデザインを参考にして、利用者のみなさんがつくりやすいようにと、相談し変化しながら、「マトリョーシカ・キーカバー」ができあがったそうだ。いろんな方の手に渡り、長年の定番となっていく中でマトリョーシカが“かのんの顔”になっていった。

※かのんの定番商品、マトリョーシカキーカバー

支援員の高橋主任が、「刺繍ができるみんなの特徴を活かすには? カラフルな刺繍を魅力的にみせるなら? みんなで協力してオリジナルの商品をつくりたい!」そんな想いで誕生したのが、「マトリョーシカ・ブローチ」なのだ。


3人が織りなすブローチ

「マトリョーシカ・ブローチ」の制作者は、佐々木総子さんと原亜季江さん、向政治さんの3名。毎週火曜日と木曜日の午前中にのみ行われる。

作業場に足を踏み入れると、利用者の方が描いた動物や昆虫の絵が壁に飾ってあった。入り口付近では、機織り機や糸を紡ぐ糸車が、出番が来るのを待っている。部屋の中央には、4台の作業机があって、そこで、佐々木さんと原さん、向さんが座って「マトリョーシカ・ブローチ」を制作中だった。

※熱心に作業をする3人の様子。(上から)佐々木さん、向さん、原さん

原さんと向さんは、マトリョーシカの胴体の部分となる刺繍を施す担当だ。ふたりとも熟練の職人のように、下書きもせずにどんどん刺繍を進めていく。原さんは玉止めを繰り返し、カラフルな無数の粒を集めた模様を、そして向さんはひとつのパターンを連続して組み合わせた幾何学模様を。ふたりの刺繍からインスピレーションを受けた佐々木さんが全体の色味を考えながら、マトリョーシカの顔や外枠となる部分の刺繍を施し、ブローチにする最終行程を担当する。

※彩り豊かな玉止めで形成された模様(原さんが担当)

※ひとつのパターンを連続して組み合わせた幾何学模様(向さんが担当)

※最後に、全体の色味を考えながらマトリョーシカの顔や外枠となる部分を刺繍(佐々木さんが担当)

※表情も、大きさも、一つとして同じものはない。なんともあいらしい色彩豊かなマトリョーシカの完成です。

おしゃべりが好きで、ときおり楽しそうに鼻唄を歌いながらリズムに合わせて刺繍をする佐々木さんと、集中した様子で黙々と針を進める原さん、佐々木さんや支援員の方からの声かけに「だいじょうぶ」と大きな声で答える、朗らかな向さん。この3人のチームワークが織りなす「マトリョーシカ・ブローチ」は、ひとつできあがるまでに、1ヶ月ほどかかる。

小学生の頃から刺繍を続けている佐々木さんに「マトリョーシカ・ブローチ」の制作について訊ねたところ、「刺繍をしているときは、きれいな気分がする。できあがったらよかったと思う。ブローチをつけてくれたら嬉しい」と答えてくれた。

※休憩時間に特技であるピアノを演奏する佐々木さん

佐々木さんの特技は刺繍だけではない。休憩中には、独学のピアノ演奏も私たちに披露してくれた。絶対音感があり、音を聞いただけで演奏することができるなんて、すごい才能だ。私よりずっと刺繍もピアノも上手で、できることがたくさんある佐々木さんを見ていると、“障がい”って一体何だろうな?と疑問がわいた。

取材が終わった後、「マトリョーシカ・ブローチ」を鏡の前でいくつか合わせて、“これだ!”と思うものを選んで購入した。佐々木さんは、大きな声で「ありがとうございます」と喜んでくれた。

最後に、一言も発さなかった原さんが、帰ろうとする私たちに手を振ってくれた。言葉を交わさなくても、心を通わせることができたんだなって。実は、作業場に踏み入れることが、制作の迷惑になっていたらどうしようかと思っていたから、取材チームはそれが嬉しくて、嬉しくて。

いま、私の手のひらで「マトリョーシカ・ブローチ」が微笑んでいる。ブローチを見るたび、佐々木さんたちの顔を思い出す。そして、じんわりと心があたたかくなるのだ。大切な場所に行くときは、お守りのように、必ず胸元につけていきたいなと思っている。

シンプルなワンピースやコートにワンポイントとして、マフラーやストールの留め具として、ヘアゴムやバックにつけても◎アイデア次第で使い方が広がります。自分用としてはもちろん、大切な方へのプレゼントとしても、ひとつひとつ表情の違う「マトリョーシカ・ブローチ」は、いかがでしょうか。

ぜひ、あなたにもマトリョーシカブローチの微笑みを!

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