徳島県障がい者マイスターとものづくり
vol.1 社会福祉法人カリヨン

県内で活躍する障がい者マイスター

 徳島県では、日々の努力や工夫により、優れた技術・技能を習得された障がい者の方々を「熟練した技術を持つ人」という敬意を込めて、「徳島県障がい者マイスター(以下、マイスター)」として認定。この認定制度は、平成26年からはじまり、いまでは30名がマイスターに認定され、多岐にわたる分野で活躍している。(※令和4年度現在)
 今特集では、創意工夫や研ぎ澄まされた感覚、そして鋭い独自の感性を持って、さまざまな仕事に携わっている徳島県障がい者マイスターや、未来のマイスターとなるべく活動する人たちを訪ねて、ものづくりの楽しさや作品が出来上がった時の喜び、また彼らと支援員さんとの関わりを読者のみなさんに届けたい。

ものづくりに特化した事業所を訪ねて

 第1回目は、平成10年に通所授産施設「れもん」を開所して以来、知的障がいのある方を対象にさまざまな機会や体験を提供する「社会福祉法人カリヨン」。カリヨンが運営する事業所のなかでも、ものづくりに特化した2つの事業所を訪ねた。

 まずはじめに訪れたのは、石井町にある「れもんワークス」の創作活動の一つ「グラスアートれもん」。10名の利用者登録があり、グラスアートや創作活動を中心とした作品づくりを行っている。「グラスアートれもん」の一日は、午前9時45分にはじまる。全員揃って朝礼をしてから、個々に作品の制作をスタート。ここでは、主にグラスアート作品を手がける佐古さんとRikuさんの制作風景を見させてもらった。カラフルな板ガラスや棒ガラスをザクザク(ガラス専用工具)でカットしてパーツをつくり、それらを配置して接着剤で固定するところまでがふたりの仕事。

 佐古さんがつくっているのは、ほのぼのとした顔で見る人を笑顔にさせるお地蔵さんのマグネット。小さくカットしたガラスパーツを迷うことなく配置していき、愛らしいお地蔵さんの姿を完成させていく。感心するのは、そのスピード感!ゲームやスポーツを楽しんでいる感覚に近いのかもしれない。お地蔵さんのマグネットはもちろん、ユーモラスなお坊さんやお遍路さんのブローチも、佐古さんの手によって次々と生み出されていく。

 一方、Rikuさんは自分のペースで黙々ときっちり仕上げていくスタイル。Rikuさんは元々小さくて細いパーツをさらに小さくカットし、綿密に計算してひとつひとつ丁寧に配置していく。Rikuさんがつくり出した色鮮やかで美しい作品は、ブローチやピアスなどのアクセサリーになるそうだ。
 出来上がった作品を専用の電気炉で焼き上げるのは、支援員さんの仕事。低温で焼いて凹凸のある質感を残したり、高温で焼いて丸みを出したり…作品に合わせて、どうしたら魅力的に見えるかを考えてから、仕上げ作業を行っている。
 スピーディーな佐古さんと、几帳面なRikuさんが「れもんワークス」を利用しはじめてから、グラスアート作品の質も生産量も格段に上がったそうだ。

お客さまを想像しながらつくる木工カトラリー

「グラスアートれもん」から車で走ること数分。次に訪れたのは、同じく石井町にある「れもんワークス」。ここでは、木工とステッチアートの制作が行われている。木工作業室に入ると、電動の裁断工具や研磨工具の大きな機械音が響き、まるで工場にいるみたい。電動工具を使う方もいれば、ナイフや彫刻刀、紙ヤスリなどで手作業をしている方も。木工カトラリーづくりは、危険を伴う作業も多く、支援員さんのサポートと利用者のみなさんの努力で技術を高めていく必要がある。「れもんワークス」には、露口誠二さん(令和元年度/木工カトラリー制作)と杉山丈さん(令和2年度/木工カトラリー制作)という、ふたりのマイスターがいる。

 独特の世界観を持ち、丁寧にカトラリーづくりに励む露口さん。黙々とひとりで制作を進めていくが、決して自己流にならず、要所要所で支援員さんに進行状況を確認し、助言を理解して取り入れながら、仕上げまで真剣に向き合っている。「れもんワークス」で制作のほか、自宅にも専用のアトリエを構え、絵画を描いたり、木工で作品をつくったりしている。休日の過ごし方を聞いたら「朝ごはんを食べた後は、アトリエでずっと制作をしています。」と答えてくれた。仕事でもプライベートでも、ものづくりを心から楽しんでいる様子が伝わってくる。木工カトラリーづくりのなかで、露口さんがいちばん好きな工程は、電動工具を使ってスプーンのすくえる部分を丸く削ること。実際に使ってくれるお客さまのことを考え、スプーンの形が見本通りになるように一本ずつ微調整を重ねて完成させていくのだそうだ。

 「れもんワークス」に来て8年目になる杉山さんは、当初は木工作業の経験がなかったため、電動工具を使うことを避けていたそうだが、「いまでは利用者さんのなかでも一二を争うほどの技術レベルになっている」と支援員さん。杉山さんのこだわりは、自分のつくるカトラリーが左右揃っていること。左右の形を同じにすることは技術的にとても難しく、少しでもずれがあればやり直しを繰り返していく。つくる過程で楽しいことは、一緒に働く利用者さんや支援員さんからアドバイスをもらってそれを表現したり、どこまで削れるかどうかなどカトラリーづくりの限界を試すこと。
 「以前一緒に働いていた先輩で、一般の会社に就職が決まった男性を尊敬していて、彼のようにやり方を変えても見本と同じようにつくれるように、もっと上手くなりたい。露口さんとともにマイスターとして、これからもしっかりとカトラリーづくりをしていきたい」と夢を語ってくれた。

制作空間であり作品を購入できる店

 次に訪れたのは、徳島市南新町にある事業所兼ハンドメイド雑貨ギャラリーの「れもん徳島アートスタジオ」。利用者さんたちが制作を行う空間でもあり、彼らの作品が展示販売されている。直接手に触れて購入することができる。

  「れもん徳島アートスタジオ」では、主にデザイン画やグラスの小物の他、コンドワバッグ(使用済の米袋を「今度は」バッグとして新しい価値を見い出しアップサイクルしていることから、名付けられた)やワイヤーアートの制作が行われている。

 コンドワバッグの制作に取り組み、令和2年度のマイスターに認定された定國直哉さん。「れもん徳島アートスタジオ」の人気商品であるコンドワバッグは、2年間の試行錯誤を経て商品化された。バッグの元になる使用済みの米袋は、支援員さんや地域の方が持って来てくれたり、近隣のお店から状態の良いものを購入したりと、たくさんの人の協力があってスタジオに集められてきたもの。まずは、米袋を選別してきれいに掃除をするところからスタート。型紙に合わせて線を引いて、裁断し、折る。さらに縫い目の線を引き、ミシンで縫製し、柿渋や蜜蝋を塗布する。時間をかけて乾燥させたら、持ち手を縫い付ける。ひとつのバッグが完成するまでに、たくさんの工程を重ね、高い技術を駆使してものづくりをしている。定國さんは「いちばん好きなのは、型紙のとおりに米袋に線を引く作業」だと教えてくれた。
 取材時は、バッグの形に縫い上がった米袋の表面に柿渋を塗布する作業を見せてもらった。刷毛を柿渋液につけたら、一定のリズムで迷いなく刷毛を動かす。縫製後にへこんだ部分にも柿渋を均等に塗り上げていく技術を見るだけでも、定國さんがマイスターに認定された理由がよく分かる。支援員さんに定國さんの性格を尋ねると「几帳面で妥協しない人。そして照れ屋だけど明るくて前向き」とのこと。
 一日のなかで楽しみにしているのは、パソコンで参考画像を検索する時間だそうだ。恐竜や動物が大好きで、定國さんが描く絵のモチーフとして登場することが多く、図鑑を読むことも楽しみのひとつ。そして、定國さんの描くイラストは独創的で素晴らしく、支援員さんをたびたび感動させているとも。定國さんが仕事のやりがいを感じる瞬間は「手間ひまかけて丁寧につくったコンドワバッグを、お客さまに喜んでもらえた時」なのだそうだ。

 もうひとりのマイスター・三谷広さんは、平成27年度に絵画・グラスアートでマイスターとして認定された。現在、新作の紙芝居を制作中の三谷さんが、これまでにつくったオリジナルの紙芝居は10作品以上になるのだそう。紙芝居は、先に物語を考えてから、後で絵を描いていくのが三谷さんのスタイルだ。いちばん楽しいと思う作業は?と問いかけたら「仕上げの色塗りですね。まずは、キャンバスをじっと眺めていると、目の前に△や○の形が浮かんで来て、ぼんやり見えるそれらのイメージを辿って、絵を描いていくんです。はじめは真っ白だったキャンバスが、だんだんとカラフルになっていくところが楽しいです」と、まるで謎解きをしながら描いていく三谷さんにしかできないやり方だ。  支援員さんから「三谷さんは先々まで見通しを立て、逆算して準備に取りかかる計画性があり、利用者のみなさんのお手本的存在。そしてどんな時もチャレンジする強い心を持っている」と教えてくれた。礼儀正しく、丁寧に質問に答えてくれる姿を見て、私たちもとても納得した。

 最後にまだマイスターに認定されていないが、未来のマイスターを目指して日々努力を重ねている澤大地さんにお話を伺った。澤さんは、高校卒業後に「れもん徳島」で働きはじめて5年目。取材当日は、先月から取り組んでいるガラスの箸置きづくりを見させてもらった。パーツを配置する時のこだわりは「全体のバランスを見ながら、できるだけ乱れないように配置すること」。いまは飾り付けに時間がかかるので、1枚のパッドいっぱいの箸置きを完成させるのに3日間かけているそうだ。

 これまでも、ワイヤーアートや絵画の制作も行ってきた。支援員さんは「たくさんの方に澤さんの原画を見てもらいたい。絵の具の使い方が本当に上手なんです。」と言いながら、澤さんの原画を見せてくれた。澤さんのワイヤーアートやデザイン画は、ギャラリーでいくつか見ることができる。本棚にある図鑑に載ったいろんな画像を見ながらたくさん絵を描いて、自分が納得したものだけに色付けしていくそうだ。自然の豊かさや動物のかわいらしさが伝わるように心がけていて、作品が完成する度に達成感で満たされている。
 澤さんにとって「作品をつくること、休憩時間に散歩すること」が楽しい時間であり、毎日そうやってたくさん過ごしていると答えてくれた。
 
 今回取材したマイスターと未来のマイスターたちの「働きたい」気持ちや得意なことはそれぞれ異なる。ただ、利用者のみなさんに共通して印象的だったのは、仕事を楽しんでいる姿だ。好きこそものの上手なれ、とはまさにそうで、みなさんは事業所で支援員さんのサポートを受けながら経験を重ね、技術が認められてきたのだ。どんな仕事でも、楽しみながらやることが大切なのだと教えてもらった気がする。

今回取材した「グラスアートれもん」「れもんワークス」「れもん徳島アートスタジオ」の商品はこちらから購入できる。商品を入れる紙袋は、利用者のみなさんが一枚ずつ手描きしたイラスト付きで、コレクションしたくなるかわいさ。商品はもちろん、一緒に届く紙袋もお楽しみに!

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